高松高等裁判所 昭和31年(う)96号 判決
弁護人島内賀喜太の論旨は、原判決は公文書偽造につき有罪を言渡しているが、本件日本国有鉄道の貨物通知書甲片は刑法第百五十五条に言う行使の目的を以て作成せられたものではなく又その行使もしていないから、事実誤認である、仮に有罪であるとするも原判決の被告人笹森に対する懲役一年の実刑は量刑不当であると言うのである。
弁護人松山一忠の論旨は、本件貨物通知書甲片は何人が見ても正当に作成せられたものでないことが明瞭なように作られ、人をして真正に作成せられたものと誤認させる程度の形式内容を備えていないから、偽造したものとは認められないのであつて、原判決には事実の誤認がある、仮に公文書偽造罪が成立するとしても原判決の被告人笹森に対する懲役一年の実刑は不当である、再度の執行猶予の判決を至当と考える、と言うのである。
被告人笹森滝之助の論旨は本件鉄道の貨物通知書甲片は一見して偽造と判明し行使不可能であるように作成したものであつて、これを行使して金融の対象とする計画など全然なく、また金融の対象にならぬものであつた、と言うのである。
弁護人宇野長之の論旨は、原判決は日本国有鉄道の貨物通知書の偽造を公文書偽造と解しているが、なるほど日本国有鉄道が公法人であることは明らかではあるが、その貨物通知書甲片は私鉄法(地方鉄道法)軌道法による営業運営による業務上の一文書であるから性質上公文書とはならず私文書である、原判決が公文書偽造としたのは擬律上の違法である、原判決の被告人菱崎に対する懲役二年(未決勾留九十日算入)の刑は重きに失する、と言うのである。被告人菱崎清一の論旨は、本件公文書が偽造せられたものとは知らなかつた、橘清、大阪信三との品物の件は知らず、金を受け取つた覚えはない、米浜の件についても同人から金を受け取つた覚はない、同被告人は函館で護岸工事に従事していて多忙であつたのでその後のことは何も知らない、と言うのである。
本件記録を精査し総べての証拠を検討するに
一、原判決挙示の証拠により
第一 (省略)
第二 被告人両名は、鰊粕につき日本国有鉄道の貨物通知書の甲片を偽造し、これを鰊粕の需要者又はその関係人に対して行使し、恰も鰊粕を鉄道により発送したかの如く偽つてその代金名義で金銭を騙取する目的で、共謀の上昭和二十九年十月十八日青森市寺町三六番地大一産業株式会社青森支店で、同店員山崎喜左衛門が手に入れて来た国鉄陸奥岩崎駅の鉄道車扱貨物通知書甲片二枚(刑第一、二号証)に同山崎をして必要事項を記入させて同駅発行名義の荷送人笹森滝之助、荷受人菱崎清一、鰊粕一一五俵、着駅鳴門なる国有鉄道車扱貨物通知書の甲片二枚を偽造した上、これらを携えてその頃徳島県鳴門に来た
原判決認定の被告人菱崎清一の各詐欺及び被告人両名の公文書偽造の事実を認めることができる。原判決には事実の誤認はない。
日本国有鉄道は国有鉄道事業を経営する公法人(国鉄法第二条)であり、その役員及び職員は法令により公務に従事する者とみなされる(同法第三四条)のであつて、その事業の施行につきその駅の職員が作成発行する貨物通知書甲片が刑法第百五十五条の公文書であることは明らかである(昭和二十三年十月二十八日最高裁判所第一小法廷判決参照。)
公文書偽造罪が成立するためにはその偽造せられた文書が一般的に見て真正のものだという印象を与える程度のものでなければならないのであつて、一般的に見てその形式内容上真正のものでないことが極めて明瞭である場合にはその偽造罪の成立を認め難い。本件偽造にかかる日本国有鉄道の車扱貨物通知書の甲片二枚(刑第一、二号証)を見るに、原審第五回公判における証人の国鉄職員(鳴門駅貨物係)柴田勉の証言によれば、(1)同甲片では運賃の支払方法が着払いになつているが国鉄ではそのような取り扱いはしていない(2)書く必要のない経由線名の記載がある(3)書くべき筈の貨車の封印番号の記載がない(4)十円単位で計算すべき運賃に五円の端数の記載のある点が正式のものと異つてはいるが、一般通常人に取つて本件偽造の貨物通知書甲片によつてそれが真正のものであるかのような印象を受けるものと認められるから、その公文書偽造罪の成立については欠ぐるところはない。
(裁判長判事 坂本徹章 判事 塩田宇三郎 判事 渡辺進)